気管支喘息の治療
我が国においては喘息治療のガイドラインである「喘息予防、管理ガイドライン」が1998年に発表され2012年に改定されております。
小児においては2012年に「小児気管支喘息治療・管理ガイドライン」が改訂されました。(小児気管支喘息の長期管理の薬物療法の項で説明します。)
喘息の重症度は喘息症状と呼吸機能(PEF:ピークフロー)にて下記の如く分けられています。
PEFとは携帯用の呼吸機能検査器であるピークフローメーターという器具を用いて、肺に吸い込んだ息を一気に吐き出した時の空気の流れのスピードを測定した値です。
成人喘息の重症度(治療前の時点での症状による重症度分類)
軽症間欠型:症状が週1回未満。PEFは自己最良値の80%以上である。
軽症持続型:症状が週1回以上。PEFは自己最良値の80%以上である。
中等症持続型:症状が毎日ある。PEFは自己最良値の60〜80%である。
重症持続型:症状が毎日あり、治療下でもしばしば増悪する。PEF60%未満。
既に喘息の治療を行っているときには現在の症状と治療ステップを考慮して重症度を分類しています。
ガイドラインでは喘息の薬物治療は治療ステップによる段階的な治療となります。
喘息治療に使用される薬剤は、毎日長期に渡って使用し、喘息をコントロールする長期管理薬(コントローラー)と発作時に使用する発作治療薬(リリーバー)に分けれます。
発作時の対応(家庭での対応)
個々の患者さんにより重症度が違うため、事前に発作時の対処法を主治医に相談しておく必要があります。
一般には、喘鳴/胸苦い、軽度の喘息症状の出現に際しては
短時間作用性 β2刺激薬の噴霧式定量吸入器を1〜2パフ吸入し、効果不十分であれば1時間まで20分おきに繰り返します。(高齢者で心疾患の合併がある時や著明な振戦や動悸などの副作用ある時は医師に吸入回数の相談必要)
★ 中等症以上の発作出現時、β2刺激薬の効果が不十分である時、繰り返し吸入が必要である時、症状が悪化していく時には直ちに救急外来を受診して下さい。
長期管理における薬物療法プラン
成人気管支喘息の長期管理の薬物療法
未治療患者の場合、軽症間欠型相当の症状なら「治療ステップ1」、軽症持続型相当の症状なら「治療ステップ2」、中等症持続型相当の症状なら「治療ステップ3」、重症持続型相当の症状なら「治療ステップ4」の治療が目安になります。
すべての治療ステップにおいて吸入ステロイドが基本治療となります。
治療ステップ1では
喘息症状がごく稀にしか生じない場合に限り、喘息症状があるときに短時間作用性β2刺激薬(気管支拡張薬)の吸入を行います。喘息症状が月に1回以上あれば、低用量の吸入ステロイド薬を投与します。吸入が不可能であればロイコトリエン拮抗薬、テオフィリン徐放製剤を投与します。
治療ステップ2では
低〜中用量の吸入ステロイド薬を連用し、それでもコントロールが不十分な場合には併用薬として長時間作用型β2刺激薬、ロイコトリエン拮抗薬や徐放性テオフィリン薬のいずれか1剤を追加します。。
治療ステップ3では
中〜高用量の吸入ステロイド薬を連用し、それでもコントロールが不十分な場合には併用薬として長時間作用型β2刺激薬、ロイコトリエン拮抗薬や徐放性テオフィリン薬のいずれか1剤あるいは複数を追加します。
治療ステップ4では
高用量の吸入ステロイド薬に長時間作用型β2刺激薬、ロイコトリエン拮抗薬や徐放性テオフィリン薬の複数を併用します。それでも管理不良の場合は、抗IgE抗体や経口ステロイド薬を用いて、喘息症状を最小限に抑えます。
♯1 基本治療となる吸入ステロイド製剤には、ドライパウダー吸入器と加圧定量噴霧式吸入器、パルミコート吸入懸濁液があります。
ドライパウダー吸入器しては、フルタイド、パルミコート、アズマネックスがあり、患者様の吸気流速を考慮して製剤を選択する必要があります。
加圧定量噴霧式吸入器としては、フルタイドエアー、キュバール、オルベスコがあります。加圧定量噴霧式吸入器は噴射と吸入のタイミングを合わせる必要があり、適宜、補助器具のスペーサーを使用して吸入してもらいます。
♯2 妊娠中には安全性のデータが最も豊富にあるパルミコートの使用が勧められます。
♯3 吸入ステロイド薬と吸入長時間作用型β2刺激薬の合剤、アドエア、シムビコートも発売されております。従来の個別の薬剤が一つにまとまったものですが、吸入の手間も2回吸入が1回吸入と簡単となり、また効果も相加効果以上のものが認められます。
♯4 2009年3月より抗IgE抗体製剤「ゾレア皮下注用」が販売されました。既存治療によっても喘息症状をコントロールできない難治性の喘息患者例で、通年性アレルゲンに感作され、かつIgE値が30-700IU/mlにある場合に使用されます。高薬価、アナフィラキシーの副反応などの問題もありますが、その有用性が期待されています。
小児気管支喘息の長期管理の薬物療法
小児においても成人喘息の治療と基本的考えは同様です。
小児では年齢を3年齢層(乳児期:2歳未満、幼児期:2〜5歳、年長児期:6歳〜15歳)に層別し、吸入ステロイドをステップ毎に低用量、中用量、高用量に分け、細かく指示してる点に相違があります。
2005年の「小児気管支喘息治療・管理ガイドライン」の改訂より、小児気管支喘息の薬物療法を基本治療と追加治療に分けております。またテオフィリン製剤はけいれん等の副作用のため、2歳未満の乳児には症状が重い場合にのみ追加治療として慎重に検討するようにし、特に6ヶ月未満の児は原則として使用しません。2〜5歳の幼児も症状が重い場合に限り追加治療で考慮し、テオフィリン製剤の使用は慎重に行われるべきであることを示しております。
2012年の改訂では、重症度の評価を、その時の症状だけでなく、治療薬の影響を考慮した「真の重症度」により判断することが必要であるとなっております。治療目標は気道過敏性を改善し、炎症をコントロールし、最終的には気管支喘息の寛解、治癒を目指しております。治療薬も新たにパルミコート、アドエアが使用可能となっております。パルミコート懸濁液は2006年9月より6ヶ月以上の乳幼児気管支喘息患者において特殊な吸入手技を必要とせず、ネブライザーにて吸入可能な薬剤です。アドエアは吸入ステロイドと吸入長時間作用性β2刺激薬の合剤です。
小児喘息の症状のみによる重症度(治療開始前の重症度)
★成人の重症度に比較すると一段階厳しい重症度になっています。
間欠型:年に数回、季節性に咳嗽、軽度喘鳴が出現する。
軽症持続型:咳嗽、軽度喘鳴が月1回以上、週1回未満出現する。
中等症持続型:咳嗽、軽度喘鳴が週1回以上あるが、毎日は持続しない。。時に中、大発作となる。
重症持続型:咳嗽、軽度喘鳴が毎日持続する。週1−2回は中、大発作となる。
最重症持続型:重症持続型に相当する治療を行っても症状が持続する。入退院を繰り返す。
ただし、治療薬によって症状がコントロールされているときの重症度は、治療薬の影響を加味して治療ステップに相当した重症度(真の重症度)となる。
治療ステップ
ステップ1では(間欠型に対応する治療)
乳児期、幼児期、年長児期ともに、基本治療は発作時に気管支拡張剤を中心とした短期的な薬物療法をします。追加治療として、ロイコトリエン受容体拮抗薬、インタール吸入薬を考慮します。
ステップ2では(軽症持続型に対応する治療)
乳児では基本治療として、ロイコトリエン受容体拮抗薬、インタール吸入薬を行ない、追加治療として、吸入ステロイド薬を低用量(フルタイド、
キュバール、オルベスコ 100μg/日以下またはパルミコート懸濁液0.25mg/日)を投与します。マスクつきの吸入補助器具やネブライザーをもちいて吸入を行います。口腔カンジダ症の副作用を防ぐために吸入直後に水分を飲ませると効果があるとする意見があります。
幼児期では基本治療として、ロイコトリエン受容体拮抗薬、インタール吸入薬あるいは吸入ステロイド薬を低用量(フルタイド、
キュバール、オルベスコ 100μg/日以下またはパルミコート懸濁液0.25mg/日)を投与します。
年長児には基本治療として、吸入ステロイド薬を低用量(フルタイド、 キュバール、オルベスコ 100μg/日以下またはパルミコート懸濁液0.25mg/日)を投与します。追加治療として テオフィリン徐放薬を考慮します。
ステップ3では(中等症持続型に対応する治療)
基本治療は、いずれも中用量の吸入ステロイド薬が第一選択です。(フルタイド
、 キュバール、オルベスコ 200μg/日またはパルミコート懸濁液0.5mg/日)
追加治療として、乳児ではロイコトリエン受容体拮抗薬、長時間作用性β2刺激剤(貼付薬、経口)のいずれかまたは複数の併用を考慮します。幼児ではロイコトリエン受容体拮抗薬、長時間作用性β2刺激剤(アドエア変更可能)のいずれかまたは複数の併用をし、テオフィリン製剤は考慮します。年長児ではロイコトリエン受容体拮抗薬、長時間作用性β2刺激剤(アドエア変更可能)、テオフィリン徐放薬のいずれかまたは複数を併用します。
ステップ4では(重症持続型に対応する治療)
基本治療は、いずれも吸入ステロイド薬をステップ3より増量し高用量使用します。(フルタイド、キュバール、オルベスコ400μg/日またはパルミコート懸濁液1mg/日)。
乳児ではロイコトリエン受容体拮抗薬、幼児ではロイコトリエン受容体拮抗薬、長時間作用性β2刺激剤(アドエア変更可能)、テオフィリン徐放薬のいずれかまたは複数の併用を考慮します。年長児ではロイコトリエン受容体拮抗薬、長時間作用性β2刺激剤(アドエア変更可能)、テオフィリン徐放薬のいずれかまたは複数の併用を考慮します。
追加治療として、乳児では長時間作用性β2刺激剤(貼付薬、経口)、テオフィリン徐放薬を考慮します。幼児、年長児においては前述の治療によっても効果が現れない場合に、追加治療として吸入ステロイドのさらなる増量あるいは経口ステロイド薬を考慮します。
以上、簡単に説明しますと、下記に要約されます。
また最近では喘息治療の早期介入療法といい、喘息発症の早期に、軽症の内に十分な治療することが、喘息の重症化を予防し、喘息の寛解をもたらすと考えられます。
「喘息治療の目標」としては、病状をコントロールして発作のない状態を保ち、健常人と変わらない日常生活を実現することと共に、非可逆的なリモデリングへの進展を防ぎ、正常な呼吸機能を維持する事であります。
気管支喘息治療のコツ
将来
ほとんどの方は吸入ステロイドを中心とした現ガイドラインの治療でコントロールできますが、罹病期間が長く、不完全な治療のため気道壁が厚くなる構造変化(レモデリング)をすでに起こしている患者さんやステロイド抵抗性の難治性喘息患者さんもおられます。
しかし、日進月歩で治療は改善しており、吸入ステロイドと気管支拡張剤の新しい合剤の開発、気管支熱形成術といった気管支インターベンション、分子標的治療など様々な新規治療が検討されており、いずれ難治性喘息の方にも奏効するものと期待されます。
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